宿泊療養までの道のり
~はじめに~
2022年7月、新型コロナウィルス感染症の有症状感染者となった。
と言っても、7月末の段階で東京都内は60人に1人が感染者となっている。
家族や職場等、迷惑をかけた方々には心から申し訳ないと思っているが、感染自体は珍しいことではない。しかも、有症状といってもおそらく『軽症者』の枠の中でも相当軽い方だ。なにしろ、熱が38度以上出たのがたった1日、それも瞬間最大風速レベルの短時間で済んでしまったから。
頭痛も1~2日で消えた。発症翌日から咳が出始めたが、それもTVやSNSで見るような症状よりずっと軽く、薬さえ飲んでいれば昼間は時々咳き込むだけ。横になると咳が出やすくなるが肋骨が痛むものの眠れないといったことはない。喉も痛いというよりは違和感がある程度。あとは鼻づまりか。
珍しくもなんともない感染、しかも超軽症でありながらなぜこんなところに体験談を書こうとしているかと言えば。
唯一、まあまあ珍しいだろう体験『宿泊療養』をしているからだ。これから宿泊療養になる可能性がある人、宿泊療養を希望する人に向けて、多少参考になる記録にできたらいいなと思っている。
まずはプロローグとして『宿泊療養にいたる経緯』を書いていきたいと思う。長くなるがお付き合いいただければ幸い。
~筆者の基本スペック~
東京都郊外…といえば聞こえがいいが、めっちゃ田舎の住宅地にある戸建て在住。基礎疾患持ちの同居家族あり。
女性。昭和生まれで50歳未満…といえばだいたいの年代がおわかりいただけるかと。2022年2月上旬に自衛隊大規模接種会場でワクチン3回目接種済。ちなみにモ→モ→モ。
テレワークが不可能な、いわゆるエッセンシャルワーカー。
~宿泊療養にいたるまで~
○発症前日
午後から妙に鼻がつまり、何度も鼻をかむ。
ただ、筆者はアレルギー性鼻炎の持病持ちなため、鼻がつまることはそう珍しくない。なので「なんか埃っぽいのかな?」と思っていた。
○発症当日
早朝4時頃、頭痛と喉の違和感で目覚める。熱っぽい気がして体温を測ると『37.1℃』。ちなみに筆者、普段36.0~36.1℃から体温がほぼ動かないので、36℃台後半でも「微熱」状態で結構だるくなる。
うわーヤバいな感染か?とりあえずまだ朝早いので様子を見よう…と朝7時まで寝直してまた検温→『37.2℃』
あちゃーこりゃ確定か…?と思いつつ、東京都の発熱相談センターに電話することに。
(この日はたまたま所用で仕事が休暇だった)
時間帯のおかげか、発熱相談センターにはすぐ繋がった。
丁寧で優しげな声の女性担当者さんは聞き取りの合間合間に「それはお辛いことでしょう」「大変でしょうが…」とちょいちょい、こちらを気遣う言葉を入れてくれる。ああ、自分も今後のお客様対応時に真似しようと心に決める。
担当者さんからの指示は「発熱外来に電話予約をしたうえでの受診」 ただ、かかりつけ病院がないと伝えると、予約の電話が現在本当に繋がらないこと、東京都のサイトに発熱外来設置医療機関のリストがあるのでかかりつけ外でも診療してくれる病院に手当たり次第に何百回でも電話をすること、当日予約がとれなくても診療が翌日以降になると言われてもそれが普通だと思って諦めないこと、などをアドバイスしてくれた。
(※注:その後あまりにも感染者が増えすぎたために病院受診の基準が設定され、上記の症状は発熱外来の受診対象外となった。なので、相談センターの指示及びこれからの行動ははあくまでも「当時の基準による」ことをご了承願いたい)
報道などでは聞いていたが本気で過酷な世界だと思いつつ、PCで教えられたリストを開き、たいていの病院が電話受付を始める午前9時を待つ。午前8時頃の検温で『38.7℃』、だいぶ高いので市販の解熱剤を飲む。
ちなみに間の悪いことに、この日は一般的な病院だと休診が多い曜日だった。リスト内で『かかりつけ以外も可』となっている病院は半分程度だが、その中の2~3割が休診している。これは相当厳しいぞ…と覚悟を決めた。
午前9時ちょうど、まずは家から一番近い診療所にかけたが話し中。2番目、3番目…と言われたとおりあちこちに電話をかけるが、どこも全部繋がらない。中には「医師が感染したため休業中」「検査キットが底をついたため受付停止」などのアナウンスが流れるところも。
昔のチケットぴあを思い出す電話の繋がらなさっぷりに多少イラつきつつ、ひたすら電話をかけ続けるが。20分が過ぎた頃から、運良く繋がっても「もう予約が満杯」と断られる率が増えてくる。どこの病院の担当者さんも本当に申し訳なさそうに断ってくるので、なんだか気の毒に思えてくる。別に病院が悪いわけじゃないものね…。
6ヶ所ほど断られたところで、家人が車を出してくれるというのでもう少し離れた地域まで手を広げることにする。同時に、小さな医院はもう無理だろうと、大きめの病院に絞ってかける作戦に変更。
9時40分頃、車で20分ほどの距離にある総合病院の発熱外来に繋がった。発熱相談センターからの指示でかけていることを伝えると(※そう言えと指示があった)夕方からでいいならまだ枠があるという。構わないと告げると、あとで折り返しの電話をすると言われたので最低限の情報だけ教えて待つことに。
待機している間に職場に第一報を入れる。とりあえず、PCR検査をやるとすれば結果は翌日以降と思われるので、翌日も休みをとらざるを得ない。人手不足なのに悪いなあ…と思ったが、どうにもならないのでひとまず許可が出る。
午前11時過ぎに病院から折り返し電話があり、16時に病院の正面玄関横の待機場所に来るよう告げられる。その時、保険証やお薬手帳と共に預り金5千円を必ず『現金で』持ってくるようにと念を押される。
16時少し前、車を出してもらって予約した総合病院へ。家人には駐車場で待っていてもらうことに。
屋外の待機場所には結構な数の人が並んでいた。年代はバラバラだが、中年以降が多い。家族総出で来ているらしき人達もいた。発熱外来は午前11時からと午後16時からだが、日陰とはいえこの猛暑、午前中並んだ人は特にきつかっただろうなと思った。
1人ずつ名を呼ばれて保険証と預り金を預けて預り証を受け取り、しばらく待っていると屋内の待機所に案内される。電話であれだけ念を押されたのに預り金を持ってきていないと言っている若い男性がいたが、あの人はいったいどうなったのだろう。
屋内待機所で保険証を返され、問診票記載と検温と酸素飽和度測定。確か37.5℃くらい。酸素飽和度の数値はこちらから見えず、また何も言われなかったが。隣にいた老婦人は「96ですね」と言われていた。
16時半前後、何重ものビニールでおおわれた仮設の診察室(=廊下の一部を区切った部屋)で症状の聞き取りと簡単な診察をされ、説明を受ける。「喉が赤いので解熱剤と消炎剤を出す。解熱剤は熱が下がったらやめていい」「今、うちの病院は6割がコロナ陽性」等の話を聞く。
PCR検査は室外…というか、病院裏口らしき半分屋外の軒下で行われた。終わったら色々説明を書いた紙を渡され、結果は電話で知らせるが感染者が多すぎて検査センターがパンク状態のため、翌日に出ない可能性があるという説明を受ける。
○発症2日目
昨日まではほとんどなかった咳が出始める。喉というより鼻と喉の境目あたり、上顎が痛い。とはいえ、我慢できないほどの痛みではない。熱は37℃台の前半後半をいったりきたり。朝目覚めると寝汗がものすごい。
15時半頃、病院から電話。「陽性です」あああ…。職場に電話、少なくとも翌週まで休みになることを伝える。
発生届が出されたようで、当日と翌日、厚労省と保健所からそれぞれショートメールが入る。
ここで困ったのが「さて、家庭内感染をどう防ごう?」
実は、普段は元気な家人にはいわゆる基礎疾患があり、それがもとの入院歴も複数ある。特に気管支系の感染症ダメ絶対な人だ。
戸建てなので発熱の段階で可能な限り生活導線を分けているが、それでも限界はある。豪邸でもなんでもない、都内のウサギ小屋一軒家だし。
少なくとも10日後までなんとしても感染させずに乗りきらねばならない。だが、まさか1度も隔離部屋から出ないわけにもいかない。詰んだ。
その時ふと、15年来の友人一家のことを思い出した。デルタ株が大流行したちょうど1年前、独り暮らしのお子さんが都内で10日間のホテル療養をしていたのだ。…これだ。
慌ててスマホで検索すると、宿泊療養センターの電話受付は9時から16時まで。この時点で17時を過ぎている。…よし、明日だ。
…とはいえ。 東京都の宿泊療養サイトの冒頭には現在、真っ赤な太文字でこう書いてある。
『感染が急拡大しており、宿泊療養施設では現在、以下のような方を優先して入所いただいています。
・コロナの症状がある方で、50歳以上の方や心疾患、呼吸器疾患又は糖尿病等、重症化リスクの高い基礎疾患のある方(なお、宿泊療養施設では対応困難な慢性肺疾患、心血管疾患を有する方、内服等でコントロール不能な糖尿病の方等は除きます。)
・同居の家族に重症化リスクの高い基礎疾患のある方や妊婦がいて、早期に隔離が必要な方』
(※東京都ホームページより)
最初に書いたとおり筆者は50歳未満、しかも目立つ基礎疾患も既往症もない。なので1つ目は当てはまらない。可能性があるとすれば2つ目だ。なんとしても状況を訴えて宿泊療養を勝ち取らねば、そう心に決める。
都のサイトによると同居の濃厚接触者用に抗原検査キットを無料郵送配布しているとのことで、それを申し込んでおく。
○発症3日目
朝目覚めるとまた寝汗がひどい。横になると咳が出るせいか肋骨の下部が猛烈に痛い。熱は36℃台後半~37℃台前半を行き来している。食欲がない、とまではいかないがめちゃくちゃあるわけでもないので、前日からスープ類にパンやご飯を入れたものを主食にし、野菜や果物を追加で細々と食べている←ビタミンが必要だという意識。
朝9時、またチケットぴあ…もとい、東京都宿泊療養センターへの電話戦争スタート。
予想通りというか、発熱外来同様に繋がらない。ひたすらリダイヤルを繰り返し、30回を軽く越えた頃。親の声より聞いた『こちらはNTTです。おかけになった番号は~』ではない、電話の発信音が流れる。やったか?!
「はい、東京都宿泊療養…」おっしゃあ!!
繋がったといっても、この段階では住所氏名生年月日や陽性判明日、陽性判定した病院などを伝えて事実確認をするだけだ。詳しくは折り返し電話がかかってきてからになる。
友人から「急に決定する可能性がある」と教わったので、自宅でも宿泊でも必要になるだろうあれこれを置き配で注文しておく。
○発症4日目
相変わらず目覚めると寝汗がすごく、肋骨下部が痛む。熱は36℃台基本で出ても37℃ちょい。医師に言われたとおり処方されたカロナールをやめ、友人から勧められた市販の咳止め薬に切り替える。
(受診段階では咳が出ていなかったため、咳止め薬の処方をされていなかった)
同居の家人は今のところ体調に変化がない。
午前10時過ぎ、都の宿泊療養担当から折り返しの電話がかかってきた。確か個人情報と現在の発熱状況のみの聞き取りだった。
「大変な数の宿泊療養希望者がいるので次の連絡は宿泊療養が可能になった場合のみ」「その連絡もいつになるかはわからない。数日後になるかもしれない」との説明を受ける。
最後に伝えたいことがあるか聞かれたので、基礎疾患持ちの家族がいて気管支系の病気は厳禁であるため、規定年齢の50歳未満ではあるが電話をかけた旨を告げる。
それに対し、担当者さんはすまなそうに「以前は同居家族の基礎疾患は優先事項だったが、今は人数が増えすぎて考慮できなくなった」と説明し、家庭内での導線の分け方などを丁寧にアドバイスしてくれた。ちなみに年齢に関しては「あら、そうなんです?」とあまり関係なさそうな口調だった。あれ?
都内の宿泊療養者は全感染者の3%という報道も目にし、これはまず無理だなーアドバイスを参考に自宅で乗りきるしかない、そう腹をくくってとりあえず寝ることにした。
午後13時40分頃、見知らぬ電話番号から着信が。
慌てて出ると「こちらは東京都宿泊療養担当です」え?!「○○さんの宿泊療養が決定しました」ええええええーーーー?!
明日午前の早い時間に迎えの車が行くが大丈夫か、アレルギーはあるか、宿泊先は、持ち物は…等々、聞き取りと説明がある。
電話を終えて少し呆然としてしまったが、そんな場合ではないと思い直した。この時点で残り約1週間の宿泊療養になる。その準備と留守にする準備が必要なのだ。
かくして発熱から4日、急転直下で宿泊療養に転じることとなった。
とにかく「電話関係は昔のチケットぴあだと思って諦めない」「無理じゃね?と思ってもとりあえず試してみる」これが大事だと悟った。宿泊療養できるのは全感染者の3%だろうが、まず電話をかけなければ当たらない。
特に現在、宿泊療養は「発熱37.5℃以下、症状が安定している」が要件なので、同居家族はともかく自分自身はこんな軽い症状でいいんだろうか…と思う人ほど対象になりやすいのではないかと思う。
役に立った持ち物等は『持ち物について』、 実際の宿泊療養は『宿泊療養中の生活』で。